お仕事ファイル 第16回

プロキックボクサー

花岡 竜 さん
はなおか りゅう・第45期生

小学2年生のときにキックボクシングと出合い、中学卒業後にプロデビューした花岡竜さん。以来、華々しい活躍を続け、その実力と人なつこい人柄でファンに愛され、期待を集める選手に成長しています。そんな花岡さんに「キックボクシングへの思い」や「将来について」「高校時代のエピソード」などについてお話いただきました。(取材2024.02.21.杉山+児玉)


キックボクシングとの出合いは?

 小学1年生のときです。柔道を習っている同級生とケンカして、投げられたことがきっかけだったと思います。よく覚えていないけれど、父に話したら、なぜかキックボクシングを始めることに。でもキックボクシングの練習って、なんだかコワそうで、初日は父にジムに連れて行かれると、駐車場で泣いていました(笑)


それでもトレーニングを続けたのは?

 実際にジムに行ったら、最初はフィットネス中心のトレーニングだったので、コワイという思いがなくなったんです。それからは、練習が楽しくなりました。小学5年生のときに、ジムを現在も所属している「橋本道場」に移ったら、それまでより練習が厳しいし、周りは自分より強い人ばかり。懸命に練習しないとついていけません。そんな環境のおかげで、どんどん力がついた気がします。それにつれてキックボクシングが、今まで以上に好きになりましたね

当時は、学校とジムに行くだけの毎日で、遊びに行けません。でも不満はありませんでした。親が子供のボクを叱るときの決め台詞が「キックボクシングを辞めさせるからね!」だったほど(笑)。それほどトレーニングが好きでした。


どんなトレーニングをしているのですか?

主にサンドバッグを打ったり、筋トレやシャドーボクシングをしたりします。好きなのはスパーリング。実践練習は楽しいですよ。パンチが当たらなかったら「次はこうしてみよう」と、考えながら闘うのが好きですね。パンチって、考えて打たないと当たらないものなんです


練習の様子を実演していただきました

「令和モンスター」と期待されていますが

 プレッシャーでもありますが、やはり注目してもらっている証なので力になります。周囲に「強いね」と言ってもらうのもうれしいけれど、実感はありません。ただ、今まで継続して行ったトレーニングが実を結んだのかな、とは思います

高校時代はすでプロの格闘家だったのですね

 そうです。ずっとプロになりたかったので、中学を卒業してすぐにデビューしましたこれは高校でも知られていましたが、同級生も先生方も普通に接してくれました。学校にいるときは、ごく普通の高校生です。ただ、授業が終わるとすぐジムに向かっていたので、友達と過ごせる時間は限られていましたね。今の生活に後悔はないけれど、部活をしたり、友達とバイトしたりするのに憧れはありました。

高校時代の思い出は?

ボクは学校が大好きでした。面白い友達も多くて、楽しかったです。コロナ渦だったので、修学旅行も文化祭もできなかったけれど、それほど不満はありませんでした。

キックボクシングの試合後や期末テストの1週間前は練習が休みなので、友達と過ごせて、うれしかったです。とくにテスト前は、仲間と集まって勉強しましたね。「THE 高校生」という感じで、大切な思い出です。それに先生方が、やさしくて面倒見がよかった。おかげで大学進学もできました。校則が厳しいのが難点でしたが、この高校に入って良かったです。今も高校時代の先生や友達とつながりがあり、試合の応援にも来てくれます。ありがたいですね。


大学進学を目指した理由は?

将来について考えた結果です。キックボクシングは選手生命が短く、一般的にピークは20代後半と言われています。あとは下降するだけ。ケガをして試合ができなくなる可能性もあります。ボクもいずれは引退するでしょうから、キックボクシングと離れたあとの自分に必要な武器を持ちたいと考えました。そのために、専門的な勉強をしようと思ったんです。

ボクは今まで自分の好きなことをさせてもらっているし、両親やコーチをはじめ、多くの方々に応援してもらっています。大学受験を控えたときも、担任の先生が夏休み中もクラスのみんなに面接の練習や小論文の添削をしてくれました。ボクもたいへんお世話になり、「自分も人のために動ける人になりたい」と思っていました。だから、第二の人生では「人の役に立つ仕事で世の中に恩返しをしよう」と決め、今、大学で救急救命士になるための勉強をしています。キックボクシングで鍛えてきた体力も、役立てたいです。

大学生活はいかがですか?

「自分が進みたい道について学んでいる」という実感があり、充実しています。勉強により、たとえば「脳のここに問題があるから手がしびれる」といった体の仕組みを理解できるし、救命の仕事内容もよくわかってきます。人の命に関わる厳しい世界ですから、勉強は大変だし、覚えることが山のようにあります。それでも自分の目標に必要な知識や技能が身につくので、モチベーションが上がります。


今まで壁にぶつかったことは?

「壁しかない」という感じです(笑)。大学の勉強も、これからさらに難しくなると思います。キックボクシングでは、今、25、6戦して3回負けています。前回はとても大切な試合で、それこそ命がけで挑んだのに、KO負けしました。気負いすぎていたのかもしれません。ダウンしたのは人生で初めてで、ショックでした。でも落ち込んでばかりでは、前に進めないでしょう。壁を乗り越えるには、練習しかありません。それに何事も順調ばかりではつまらない。「前回負けたのは、今後勝ち続けるために必要だった」と解釈しています。


同窓生たちへメッセージを

ボクは早くから将来の目標があったけれど、なかなか見つからない人もいると思います。でも焦る必要はありません。機会あるごとに、いろいろ試して視野を広げてはいかがでしょう。そうしているうちに、好きなことややってみたいことが見つかるもの。それがわかったら、全力で突き詰めていけばいいと思います


花岡 竜さんプロフィール

昭島市出身。8歳からキックボクシングをはじめ、中学卒業までに28タイトルを獲得したスーパーフライ級キックボクサー。高校入学後も学業と両立しながら、「平成最後の怪物」「令和モンスター」と呼ばれるほどの活躍で、多くのファンを獲得。初代KNOCK OUT BLACK初代スーパーフライ級王者をはじめ、輝かしい実績を持つ。2024年3月17日に行われた格闘技イベント『ABEMA presents RISE ELDORADO 2024』での勝利も大きな話題になった。